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2018.08.22

【特別寄稿】ロバート・グラスパーが変えた「ゲーム」

現代ジャズシーンにおける最重要アーティスト・ロバートグラスパーが率いる

「R+R=NOW」。9月1日昼公演に出演するスーパーグループのみどころを

Jazz The New Chapterの柳樂光隆さんに寄稿いただきました


 

ロバート・グラスパーは、R&Bとジャズをめちゃくちゃ面白くかつユニークな方法で組み合わせることで、トップレベルのゲームのありかたを変えたんだ。彼は僕らの世代の最も偉大なピアノ・プレイヤーだし、彼は素晴らしい作曲家でありレコード・プロデューサーだね。 -リオネル・ルエケ

 

これはギタリストのリオネル・ルエケ(ハービー・ハンコックのバンドの一員として出演予定)が東京JAZZに際して送ってくれたコメントだ。ロバート・グラスパーのバンド、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの初代メンバーの一人で、定期的にコラボレートしてきたリオネルのこのコメントはとてもわかりやすい。

 

ロバート・グラスパーが変えた「ゲーム」とは何か。それは『In My Element』、『Double Booked』、『Black Radio』とリリースを重ねる過程で、様々な形でジャズの中にヒップホップやR&Bの要素をナチュラルな形で取り込んできたことであり、それをジャズでもヒップホップでもR&Bでもない新たな生演奏の音楽として形にしてきたことでもある。

 

ただ、そんな音楽の要素はこれまでにも存在していた。クエストラヴやピノ・パラディーノといったディアンジェロやエリカ・バドゥの周辺のミュージシャンだったり、そこにいたロイ・ハーグローヴがやっていたRHファクターであったり、そういう場所には、ロバート・グラスパーがやっている音楽の中にあるエッセンスを既に聴くことはできる。でも、それらをジャズミュージシャンによる即興演奏を軸にしたセッションを核に据えた形でフォーマット化して、更にそれを洗練された形でパッケージしたアーティストはこれまでに存在しないと言っていいだろう。これまでに存在していた要素を音楽的にまとめあげて、一つのアートフォームとして提示し、それを名実ともに成功させたことで、彼は新たなゲームを生み出し、定着させたのだ。

 

つまりピアノトリオでのジャズ=『In My Element』、エレクトリックなジャズ=『Double Booked』、ヴォーカリストとのコラボレーション『Black Radio』と、外側を変えながら、様々な形式で、ジャズミュージシャンによる即興演奏を軸にしたセッションのひな型を作り上げたのだ。だからこそ、リオネルは彼をレコード・プロデューサーと、そして、ゲーム・チェンジャーと呼んだのだろう。

 

今回の東京ジャズに出演するキューバのピアニストのロベルト・フォンセカはキューバの音楽シーンの中でとても大きな存在だ。伝統が重んじられるキューバのジャズシーンの中でも世界の潮流を読み、完成度の高い形でヒップホップを取り入れたパイオニアでもあるロベルトは(U)nityのアクセル・トスカなど新世代にも大きな影響を与えている。

 

ロバート・グラスパーはアートをクリエイトするってことにおいて最もインスピレーションを与えてくれるピアニストの一人だね。最も大きな影響力をもつ現代のピアニストだし、真のグルーヴ・マスターだよね。彼は音楽が生き続けるために神に選ばれた音楽家なんだよ。 -ロベルト・フォンセカ

 

とロベルトも賛辞を惜しまない。その影響はキューバにも、そして世界中に広がっている。それは単純に彼のリハーモナイゼーションのセンスやリズムフィギュアの扱いの巧みさだけではなく、世界中のジャズミュージシャン達に新たなゲームを提示したことが最も大きなことではないかと僕は思っている。

近年はスーパーグループのR+R=NOWを結成し、活動している。このグループはLA出身のサックス奏者で、ケンドリック・ラマー作品のプロデューサーも務めるテラス・マーティン。ルイジアナ出身のトランぺッターで、ブラックネイティブアメリカンのクリスチャン・スコット。自作をブレインフィーダーからリリースし、LAを拠点に活動しているビートメイカーでヒューマンビートボクサーでもあるテイラー・マクファーリン。フィラデルフィア出身のベーシストでグラスパー作品には欠かせない右腕のデリック・ホッジ。NYで活動するドラマーでエスペランサ・スポルディングやジェイソン・リンドナーらとロックやエレクトリックミュージック路線の作品に起用されるジャスティン・タイソン。この5人にヒューストン出身のロバート・グラスパーが加わる。

 

R+R=NOWはジャズシーンの最前線に関わりながらも、バラバラな出自を持つミュージシャンが集まっていることが重要な意味を持つ。Jディラをリスペクトし、NYヒップホップを愛するグラスパー、ギャングスタヒップホップに大きな影響を受けたテラス・マーティン、トラップやダンスホールレゲエに関心を寄せるクリスチャン・スコット、UKのブロークンビーツからの影響を公言するテイラー・マクファーリンと、それぞれの志向もバラバラだ。

 

ただ、その様々な音楽的ベクトルをトップレベルのミュージシャンのインタラクティブな対話により調和させ、これまでに聴いたことがない生演奏セッションによるサウンドを提示したのがこのR+R=NOWだ。

 

今や、大枠で見ればすべて《現代ジャズ》として括れてしまうし、ここに参加しているメンバーも《ジャンルを超えたサウンドを生み出す現代ジャズ》と括れてしまう。ただ、その中にある様々なジャンルの超え方、ジャズミュージシャンとしての様々な出自があり、一見、そう簡単には交われなそうに見える。ここでは、それを交わらせてしまい、ロバート・グラスパーはまた一つ新たな方法論のフォーマットを提示した、ともいえるだろう。

 

とはいえ、ロバート・グラスパーは自作の中でもこれまでにそんな交われないはずのものを交わらせてきた。『In My Element』ではハービー・ハンコックとレディオヘッドをマッシュアップし、『Double Booked』ではセロニアス・モンクの楽曲をJディラ的なビートで再構築した。『Black Radio』ではデヴィッド・ボウイやシャーデーなどイギリス経由の楽曲を取り上げネオソウル文脈に置き換えた。『Black Radio 2』では高速ドラムンベースの上でノラ・ジョーンズが歌う楽曲もあった。彼はそうやって混ざらなそうなものをいつも混ぜて合わせてきた。それもすべて洗練された形で、実にスムースに混ぜ合わせ、あたかもずっと前からそんな音楽が存在していたような錯覚をいつも感じさせてくれた。しかも、何も特別なことはやってないだろ?って涼しげ(で不敵な)な顔をして。

 

R+R=NOWがどんなライブをするのか。僕はわからないが、ロバート・グラスパーの諸作だけでなく、クリスチャン・スコットの『THE CENTENNIAL TRILOGY』や、テラス・マーティンの『Sounds of Crenshaw, Vol. 1』、テイラー・マクファーリンの『Early Riser』、デリック・ホッジの『The Second』などを聴いてから見てみることをお勧めする。おそらく、その全く違うサウンドの《ジャズ》がR+R=NOWの名のもとに融合するはずだ。そのハードルの高い新たなゲームを生で見るのは、スリリングに違いない。

 

最後にジョン・スコフィールドが語るロバート・グラスパーを記しておこう。

 

僕はテキサスについて好きなところを語れって言われても語れることは少ないけど、ヒューストンという場所には僕らは感謝しなきゃいけないと思ってる。なぜならロバート・グラスパーという偉大なアーティストを生んだんだからね。彼は素晴らしく、完璧なやりかたでジャズとヒップホップを融合させた。そして、僕が言うまでもなく最上級のピアニストだ。そのうえ、彼はバンドリーダーとしても素晴らしい才能を持ってる。僕は一度しか共演のチャンスを得られてないんだ。共演する機会を待ってるんだ。 -ジョン・スコフィールド

 

柳樂光隆(Jazz The New Chapter)

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